ガラクタ♂♀狂想曲

そっと柔らかい髪に触れ頭を撫でてみたら、ぽわんとだらしなく開いていた口が閉じてしまった。睫毛が思っていたより長いデンちゃん。

そんな彼のピアノをはじめて聴いた日。
あれから桐生さんは本当に帰ってしまい、代わりにウィーンで知り合ったという西崎さんが、私たちのテーブルに座った。

驚いた私だったけれど、デンちゃんも驚いていた。話を聞けば西崎さんはデンちゃんの初日を見るために知人を連れてきたという。

全然気づかなかったといったデンちゃんは、すぐ数人に囲まれてしまい、4人掛けのテーブルがギュウギュウになってしまって。

だけど驚くべきことはそれからで、なんだかどんどん話が進んでいき、なんとテレビにも出たデンちゃん。おかげで店は大繁盛——、だけには留まらず。公私とも本当に忙しくなってしまったデンちゃんはちょっとした有名人? になっている。

ホストだったときの愁をカタカナに変え、シュウと名乗るデンちゃんは、茶の間のアイドルになりつつあった。

だからじつはこんなふうに、ふたりで朝を迎えたのはデンちゃんが帰国してから、はじめてだったりする、のに…。


「ばかデン」

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