ガラクタ♂♀狂想曲

疲れ果てていたのか、私を抱きしめたまま爆睡してしまった。

いなくなってしまったときとは違って、いまは手の届かない、どこか遠い存在になってしまったような……、そんな気分になる。

寝ているデンちゃんは、こんななのに。


「ねえ起きて」


異国なのにも関わらず、デンちゃんの歳で、個人でこんなことをやっているのは番組特集を組むに持ってこいらしい。来週からテレビクルーを引き連れオーストリアに入る。

これも西崎さん絡みなわけで。

たぶん、てか絶対デンちゃんって、男のひとを惹きつける特別ななにかを持ってる…。


「デンちゃん」


軽く揺すってみるも、起きる気配がない。


「ねえってば」


あれから桐生さんとは、改めて時間を持った。

あの人も、こんな間抜けな顔して眠るデンちゃんに惹かれたひとり。

だけど私は、そんな桐生さんに惹かれはじめていたのだと思う。綺麗な言葉でいえばビジネスライク的にはじまった私たちなのではあるけれど。ふとした瞬間、触れてはいけない部分に触れた気がしていた。

もしかすると、わかってあげられるのは私だけなんじゃないだろうかという錯覚。同情と哀れみにも似た感情——。そんな簡単な言葉だけで済ませられるのだろうか。

あの人の頭の中にあったのは、後にも先にも、ずっとデンちゃんのことだけだった。


「——ほら、起きてよ」

「……何時?」

「朝」


うっすらと目を開けるデンちゃん。


「——ン」


だけど短く唸ったあと、また目を閉じてしまった。


「デンちゃん」

「——抱っこ」


まだ目を閉じたまま。力のない、だらんと伸びきった腕がほんの少し上がっただけ。

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