ガラクタ♂♀狂想曲
よくわからなかったけれど、私にも、ということは、きっと桐生さんも、瑠美からの謝罪の言葉を受けたのだろうと思った。
デンちゃんがいなくなった、あの日。私とデンちゃんを送り届けてくれた桐生さんは瑠美のもとへ戻ったといっていたから、そのときの話なのだろうと思う。そして、おそらくそれから瑠美と桐生さんが会ったことはない。
偶然瑠美と会ったあの日どこか懐かしそうな、まるで旧友にでも再会したような笑みを浮かべていたから。
こうやって時間が経てば、そのときは理解できなかったことでもぼんやりと形が見えてくる。以前は瑠美を好きだといっていたデンちゃんが、当時から私のことが好きだったということに気づいたのはピアノを気持ちよく弾けたときなのだそうだ。
「ねえデンちゃん」
「んー」
「ホントは、ちょっと怖いんでしょ」
「なにが」
「今日行くの」
「ん?」
不思議そうに顔を覗き込んでくるデンちゃん。
もしかしたら私が怖いのかも。デンちゃんと一緒にいる瑠美を見るのが。そこにいる自分も。
自分だけが、なにも変わっていないような気がした。
「———これから瑠美のこと、お母さんて呼ぶの?」
「そんなまさか」
そしてデンちゃんは目を細め、ふふっと小さく笑う。
「言っとくけれど、俺はリリちゃんの名付け親。向こうでかなり鍛えられてる」
「あー…、そっか」
それとこれとは、また違うんじゃないの? と思うのだけれど。なぜか得意げにクイッと顎をあげるデンちゃんを見れば、そうなのかもしれない。
「だけど衝撃」
「なにが?」
「だってデンちゃんがいない間って1年半だけなのに、赤ちゃんだよ? 産まれたんだよ? 普通驚くでしょ」
「そ?」
「うん。1年半って、なんか私が思ってるより相当ヤバイかもしんない」
「そうかな。ま、たしかにショコちゃんも老けたしね」
「——ちょっと」
気にしてるのに。
ただでさえ若く見えるデンちゃん。
これからきっと、どんどん大きくなってくだろうデンちゃん。