ガラクタ♂♀狂想曲
「デンちゃん」
「——なに?」
そして動きを止め、私の肩へちょこんと顎を乗せた。
「どうして私の名前、知ってたの?」
「あいつが何度も呼んでたじゃん」
「……そっか」
特別な何かを期待していたわけじゃないけれど。そういえば何度も"祥子、祥子"って呼んでたっけな、あいつ。
「いまごろ?」
いまデンちゃんが小さく笑ったのがわかる。私の首筋に短い息がかかった。
「んー、急に思い出しただけ」
デンちゃんの腕の中。居心地は、決して悪くないんだけど——…、
そういや、あのときデンちゃんの拳にはあいつの血がついていて。服にも少し。
代わりの服は何枚もあったけど、デンちゃんはそれを次々ゴミ袋へ入れていった。
"玄関の鍵とか、一応変えたほうがいいかもね"
『あー、うん。それより名前、なんだっけ? 今日のお礼じゃないけど、お店に行ってボトル開けるよ』
"いいってそんなの"
『いいの、気持ちだから。あれ? 名刺どこやったけな? それよりお店って、どこにあるの?』
"俺のことはデンでいいよ"
『——で、でん?』
"デンって呼んで"