ガラクタ♂♀狂想曲
はじめは変わった源氏名だなあ、って吹き出してしまいそうになった私。だってデンちゃんって、なんか濁音な顔じゃないし。
だけどあとで見つかった名刺には、愁と書かれていた。
「デンちゃん」
「ん?」
「お風呂上りのビール、楽しみだね」
「———あ、やばい。俺、もしかして冷蔵庫入れるの忘れたっぽい」
「えええぇー」
どうしてデンなのかな。
私に本名を名乗らなかったデンちゃんは、出張ホストと変わらない。だけどあのとき私はべつに知りたいとは思わなかったし、それを突っ込んで聞くこともしなかった。
だからデンちゃんは、出張ホスト。きっと私を癒しに、うちへやってくるだけ。
私と一緒にいるときに見せる顔は、"デンちゃん"を演じている。愁でもない、デンちゃんを。
ヘンなの。
「よしデンちゃん」
決めた。
お酒の力を借りる。
飲んで忘れよう。
今日のゴチャゴチャした気持ちも、瑠美ちゃんが30歳だったことも、とにかくなにもかも真っ白に。
「今日は飲もう!」
「大成功!」
「——なにが?」
「だってこれ、俺の作戦」
「なんの?」
「お風呂でショコちゃんのお目々パッチリ作戦! 今日はパーリーナイ!」
そして湯船に張ったお湯が大きく波立つほど、私を抱きこみ身体を左右に揺らせるデンちゃん。