ガラクタ♂♀狂想曲

「あ」


そして再び震えはじめた携帯を握り締めデンちゃんの背中を眺めた。着信へ指をかける私の親指が小刻みに震えてしまう。


「また鳴ってるよ」

「——あっそ」

「出るよ?」

「どーぞ」

「……」


無理。やっぱりそんなの無理。だってこれ以上は踏み込んではダメだと、さっきから危険信号が忙しなく点滅中。

だけどデンちゃんは、こっちを向かない。


「……ぽち」


ほんとさ、もう知らないから。


『———もしもしハヤトくん?』


"ハヤト"——愁でもなく、デンでもなく。耳に新しい名前。

思わず人違いですと言ってしまいそうなほど、それは聞きなれない音で。

携帯を耳に押し当てたまま、思わず固まってしまった。なんだか少し息苦しい。


『ハヤトくん、もしもし?』


おばさんのくせに。
30歳のくせに。
アシカのくせに。

なにか喋ってやろうと思うけれど、言葉が出ない。


「——!!?」


すると私の手からスルッと携帯を引き抜いたデンちゃんは電話を切った。だけど私が瑠美からだと言っていたら、デンちゃんはあのときのようにまた慌てて携帯に出たのかな。

どうしてた?

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