ガラクタ♂♀狂想曲
「ショコちゃん」
こんなふうに困った顔で少し首を傾げ、私をショコちゃんと呼ぶデンちゃんは、瑠美ちゃんの前ではハヤトらしい。そして多分それが、本名らしい。
「瑠美の声、はじめて聞いちゃった。いまの瑠美だったよ」
私がそういうと、デンちゃんはとくに表情も変えず。
「もしもし瑠美?」
それはふたたび着信したのか、それとも履歴から飛んだのか。携帯を耳に押し当て、背中を向けたデンちゃん。
「はあ…、」
意識的に出したかと思えるほど演技テイストな、無意識のため息が出た。
「——よいしょっと」
電話中のデンちゃんを残し、ひょいっとベッドから立ち上がる。昨日は乾かさずに寝たから、おそらく酷い寝癖がついているであろう髪に指を通した。それから両手で髪を撫で付けるように押さえつけたとき——
「あ、やばい」
思わず手を止め、自分の指をくんくん嗅いだ。するとやっぱり手の平から淫らな残り香が。
「はあああ——…、」
だけどこれは仕方ない。
これほどの寝癖だと、すぐに直ってくれそうにもないし、もう一度髪を洗ったほうが早く支度出来そうだ。
そしてテキトーに選んだTシャツを頭から被り、ボックスから手探りで選び取ったショーツを穿く。
「汚なー」
宴会のあとの朝は、これだから困る。まさしく惨劇? 散らかったテーブルの上に空き缶が何本も並んでいるし、スナック菓子のカスが飛び散っている。それと飲みかけだった缶ビール。
さすがにもう気が抜けていると思いきや、口をつければまだ微炭酸。しかも、
「うえ…、まずぅ」
生ぬるくて麦くさいソレ。だけど冷えているときって、あんなにすっきりとした飲み物なのに温くなったら、どうしてこんなにベタつく飲み物になるんだろう。