ガラクタ♂♀狂想曲
だって私ったら、キスマークだけでこんなにも動揺している。耐え切れなくなったらと言うより、もう限界なのかも。
「ん?」
デンちゃんが置き去りにした携帯が、シャワーの音のかき消されながらふたたびブーブー、ブーブー。目をやればベッドの上に無造作に転がって、それが妙に力強く光って見えた。
なんだか自らの所在を、私に向かってアピールしているかのよう。気のせいだろうけど。
「……」
止まった。
すぐ上がると私に言ったはずのデンちゃんなのに、まだ上がってくる気配はない。まあ、これから愛しの瑠美と会うんだし、あちこち隅々と入念に洗っているのかもね。
ブーブー、ブーブー。
「朝からしつこいな」
ふたたびその存在をアピールする携帯を睨みつけ、時計に目をやった。太めのデジタル表示された数字が、ちょうどひとつ進む。9:17。
「早くしてよ」
すると嗅ぎなれたボディーソープの香りが部屋中に充満し、鼻歌らしきデンちゃんの呑気な鼻唄が聞こえてきた。
「もうッ」
短く勢いのいい息を吐き出し、携帯を手に取った。そしてふと思う。
そういえば店の名刺に書かれていた番号と、この番号ってはたして一緒なのだろうか。
《着信:山下瑠美》
「……瑠美のやつ」
そのまま留守電へ繋がってしまったようで、ぴたりと動きを止めてしまった。そういえばここに客から電話が掛かって来たところって、一度も見たことがない。まあだけど学生が本業だし、そんなものか。
それにデンちゃんは一部だけで、二部のほうへは入ったことがないと言っていたし、週2〜3回ほどだったら携帯を使い分ける必要もないのかも。