ガラクタ♂♀狂想曲
「——離してってば」
そして私はその腕の中から無理矢理抜け出す。腕を突っぱり、身体を引き離した。―——とはいえセミダブルのベッドだし。
「ショコちゃん」
デンちゃんはそう言って私を見つめ、頬へ手を伸ばしてくる。だけど私はその手を払いのけた。
「触らないで」
「—―わかった。だけど、涙は拭かせて」
私がそれに応えないでいると、少し口を横に結んだデンちゃん。私の返事を待っているのか、口を開かない。
なんだかそのまま空気が、ぴたりと止まってしまったかのよう。
「そんな目で…、見ないで」
まるで愛しいものでも眺めているようにも見える目。もっと軽くあしらってくれたほうが、私のほうも気軽に手放せるのに。
「泣かないでショコちゃん」
「な、泣かせないでよ…」
「もう泣かせない」
そして今度は躊躇いがちに手を伸ばし、そっと私の頬へ触れた。
「ほ、んとに…。ほんとに、意味わかってる?」
さっきまでぴたりと止まっていた空気が、なんだが今は震えて見える。だけど私の呼吸が震えているだけなのかも。
「わかってる」
「———わかってないよォ、デンちゃん」
ずっと見つめ合っていたけれど、デンちゃんの視線に耐え切れなくなった私は布団へ顔を押し付けた。
だってデンちゃん、私のことなんて全然好きじゃないくせに。
これまで一度たりとも、私に愛を詠うような言葉を吐いたことなどないくせに。
私を突然思い出しただけで、ただそれだけのはずで、ずっと連絡もしてこなかったくせに。