ガラクタ♂♀狂想曲
ずっと抑えてたんだから。
いまならまだ、抑えられたのに。
いつのまにか、こんなにも本気で好きになって。
デンちゃんが悪いんだから。
「俺は瑠美のためなら、ぶん殴られても、投げ飛ばされても我慢してその身を守りたいと思う」
「……なにそれ」
「ムカつくんなら、ほら」
顔を上げた私に向かって、くいっと左の頬を突き出してきたデンちゃん。
「殴れば」
「なんなの」
「だけどショコちゃんは、俺が立ち向かってボロボロになるまで戦って守ってあげたい」
「……」
「いま思いついた」
「ひとこと、余計なのよ」
「ほらパンチは?」
ぐいぐいと頬を突き出してくるデンちゃんは、私の手を取って自分の頬をパチパチと殴る。
「痛いショコちゃん」
そして大袈裟に痛がり、首をすくめてふざけた顔をしてみせた。まだ私は、なにも力を入れていないのに。
しつこいほど何度も繰り返すから、静かだった部屋にはピチパチと湿った感じの間抜けな音が鳴り響いた。
「痛い、痛い。誰か助けてえ、ショコちゃんがあ」
「……も、も〜〜〜〜〜おッ! デンちゃん!!」
「うわわ、イテ! マジかよッ」
「バカッ、バカッ!!!」
力の限り渾身の力を込め、バシバシとデンちゃんの身体を叩く。
「ばかデンッ!さっさとボロボロになっちゃってよ」
「おー、おー。それでもなんでも、何度も立ち向かう」
そしてフンと鼻を鳴らしたデンちゃんは、口の端をクイッと上げた。
「ひざ蹴り食らって、顔もボコボコになって、それで」
「それじゃあ、俺は踵落としで反撃するから大丈夫」
「の、野垂れ死んじゃえば?」
「ショコちゃん」
「……」
「言いすぎ」
そう言ったデンちゃんの顔は、もう笑っていない。私の両腕を掴み、顔を覗き込んできた。