ガラクタ♂♀狂想曲

いろんな顔を持つデンちゃんは、ホストのときや瑠美の前で、どんな顔を見せるのかな。私の返事を聞いて、ふはっと大きく口を開け笑ったデンちゃんだけれど、なんとなく誰にも見せていない顔がまだあるんじゃないかって思えた。ひょっとするとデンちゃんの心の中には、誰にも触れられたくないモノがあるんじゃないかなって…、


「ショコちゃん」

「うん?」

「俺を助けて」


私を見つめ、急にそういうデンちゃん。


「——溺れる」

「へ? え!!?」

「助けてショコちゃん」

「なに急に、ちょっと?」

「なんかショコちゃんが小難しい顔してたから、溺れてみた」


そしてケラケラ楽しそうに笑うデンちゃん。


「俺が溺れたらダメだし。帰ったら、お風呂一緒ね。溺れたら助けてくれる?」

「そりゃ、溺れてたら助けるけど」

「じゃあ、そうしよ」

「ええー」

「だってそのときは、無条件でキスできる」

「なにそれ」

「人工呼吸?」


そしてどこか少し得意げに顎をクイッと上げ、なぜかそのまま、ちょっと偉そうな顔して私の返事を待っているデンちゃん。


「——ねえデンちゃん」

「ん?」

「お風呂ひとりで入って。だって私、人工呼吸の仕方って知らないし」

「あはは、俺も。あ、でも免許取るときやったかな」

「免許持ってるの?」

「地元で取った」

「へえ」


知らなかった。そういえばいつも聞いたらなんでもそれに応えてくれるデンちゃんだけど、あまり自分から話そうとしない。進んで自らのことを話してくれたのは、瑠美のことだけだったんだと気づく。

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