真っ白なキャンバス(仮)
俺は少し苦笑してまたスケッチブックに視線を落とす。
綾乃にとってここ(屋上)は居心地の良い場所なんだろう。
多分それは俺や恭平にとってもー。
「あ、恭平!!この間女と歩いてたでしょ?」
「え?歩いてねーよ」
「綾乃がいるのに~~~!!」
「はぁ?何かの勘違いじゃねーの?うわ、髪グシャグシャにすんなよ!」
いつものようにハイテンションな綾乃とそれを適当にかわす恭平。
ケンカしてるんだか、じゃれ合ってんだかよく分からないけど…。
何だかこの風景も見慣れてしまった。
うるさくて時々イラッともするけど何故か心地よくて。
…この2人といる空間は嫌いじゃない。
不思議だ。
人と関わる事が苦手な俺がこんな気持ちになるなんてー。
*
そんな毎日が過ぎて夏休みを目前にしたある日。
いつものように屋上の扉を開けようとして俺は異変に気づいた。
扉がどうしても開かない。
「海斗、どうした?」
そこに恭平と綾乃がやって来る。
「鍵が掛けられてるみたい」
「えーっ、マジで?」
綾乃もドアノブをガチャガチャと回す。
「超ショックー!何で?」
「夏休みだからからかも」
今まで"立ち入り禁止"の屋上が開いることの方が不思議だったんだけどね。
「もー。恭平のギターがうるさくてバレたんじゃないの?」
「お前のタバコが通報されたんだろ」
子どもみたいに言い争う2人。
「あーあ。せっかく見つけた秘密基地だったのにぃ」
「まあ他にないもんな。青空見ながら寝転んだり、ギター弾ける場所なんて」
「タバコもね」
「それしか考えてないのか、お前は」
もうこの場所で過ごすこともなくなるんだろうか?
そう思ったら、心にポッカリ穴が開いたような気持ちになる。
そして俺は思わず口を開いた。
「…うち、来る?」