真っ白なキャンバス(仮)
3.消せない記憶
恭平が我が妹を連れてきたことに困惑して言葉も出ない。
連れてきたと言っても、ここは彼女の家なんだけどね…。
「誰?知り合い?」
綾乃が俺と望みの顔を交互に見る。
「途中で分かったんだけど海斗の妹なんだってな」
「妹!?」
「まあ…」
恭平が助けた女の子がたまたま俺の妹だったなんて。
ものすごい偶然じゃない?
こんなことあるんだって1人で感心してしまった。
「望、怪我したってどこ…」
望はさっきから俯いたまま。
俺はそんな彼女の顔を覗き込んだ。
「大丈夫。大したことないから」
「でも」
「自分で手当てできるから」
望はそう言って自分の部屋へ走っていってしまった。
「あ、望!?」
望とは近頃いつもこんな感じだ。
会話らしい会話したのっていつだっけ…?
*
「ごめん恭平。アイツ無愛想で」
俺はテーブルにジュースを置いてそう謝る。
「海斗にそっくりだね♪」
「こら、綾乃」
恭平が綾乃の頭を軽く叩いた。
「まあ本当にそうなんだけど。恭平、ごめんね。助けてもらったのに」
「いや全然。でも妹、最近何か悩んでる様子なかったか?」
「え?」
急に小声になった恭平の様子を見て俺は首を傾げた。
「特に気づかなかったけど」
「そっか」
「何で?」
「さっき、飛び降りようとしてたところで声かけたんだよ」
「は!?」
恭平の言葉に驚いで思わず飲んでいたジュースをふき出しそうになった。
「スタジオの向かいのビルに思いつめてる様子のあの子が立ってて。で、慌てて止めにいったわけよ」
「望が?」
「うん」
「でも、それで何で怪我したの~?」
綾乃が不思議そうに首を傾げる。
「ああ。それがな…、助けた時にちょっと突き飛ばしちゃって」
「は?それアンタのせいで怪我したってことじゃん」
「俺のせいじゃねえし。俺も必死だったんだよ」
揉める2人を少し離れたところからボーッと見つめる俺。
「ドジ。そもそも恭平の勘違いだったんじゃないの?ただ景色見てたとか」
「ちげーよ!海斗、何か心当たりないの?」
「特にないけど」
「そっか…」
本当は、心当たりが全くないわけじゃない。