真っ白なキャンバス(仮)

3.消せない記憶



恭平が我が妹を連れてきたことに困惑して言葉も出ない。
連れてきたと言っても、ここは彼女の家なんだけどね…。


「誰?知り合い?」

綾乃が俺と望みの顔を交互に見る。

「途中で分かったんだけど海斗の妹なんだってな」
「妹!?」
「まあ…」

恭平が助けた女の子がたまたま俺の妹だったなんて。
ものすごい偶然じゃない?
こんなことあるんだって1人で感心してしまった。

「望、怪我したってどこ…」

望はさっきから俯いたまま。
俺はそんな彼女の顔を覗き込んだ。

「大丈夫。大したことないから」
「でも」
「自分で手当てできるから」

望はそう言って自分の部屋へ走っていってしまった。

「あ、望!?」

望とは近頃いつもこんな感じだ。
会話らしい会話したのっていつだっけ…?





「ごめん恭平。アイツ無愛想で」

俺はテーブルにジュースを置いてそう謝る。

「海斗にそっくりだね♪」
「こら、綾乃」

恭平が綾乃の頭を軽く叩いた。

「まあ本当にそうなんだけど。恭平、ごめんね。助けてもらったのに」
「いや全然。でも妹、最近何か悩んでる様子なかったか?」
「え?」

急に小声になった恭平の様子を見て俺は首を傾げた。

「特に気づかなかったけど」
「そっか」
「何で?」
「さっき、飛び降りようとしてたところで声かけたんだよ」
「は!?」

恭平の言葉に驚いで思わず飲んでいたジュースをふき出しそうになった。

「スタジオの向かいのビルに思いつめてる様子のあの子が立ってて。で、慌てて止めにいったわけよ」
「望が?」
「うん」
「でも、それで何で怪我したの~?」

綾乃が不思議そうに首を傾げる。

「ああ。それがな…、助けた時にちょっと突き飛ばしちゃって」
「は?それアンタのせいで怪我したってことじゃん」
「俺のせいじゃねえし。俺も必死だったんだよ」

揉める2人を少し離れたところからボーッと見つめる俺。

「ドジ。そもそも恭平の勘違いだったんじゃないの?ただ景色見てたとか」
「ちげーよ!海斗、何か心当たりないの?」
「特にないけど」
「そっか…」

本当は、心当たりが全くないわけじゃない。
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