真っ白なキャンバス(仮)
「え?」
彼女の意外な言葉に俺は振り返った。
「言っとくけど私、教師じゃないからね」
「え?」
「これでもいちおー生徒!」
彼女はそう微笑んで、持っていたタバコに火を付ける。
俺はいまいち状況が飲み込めず首を傾げた。
「だって私服…。ていうかタバコ…」
「うちのガッコ、私服OKっしょ?」
確かにうちの高校は制服と私服の選択制だ。
とはいえ私服の生徒はほとんどいないし。
その前にタバコは何なんだ?
校内で堂々と吸うなんて…。
色々とツッコみたいところはあったけど俺は言葉を飲み込んだ。
「何か描いてたんでしょ?私のことは気にしないで続けて」
「…」
続けてと言われても…。
俺は少し迷いながらも、さっきまでいた場所に腰を下ろした。
彼女は空を見上げながらタバコをふかしている。
元々、人と接することが苦手な俺。
ましてや見ず知らずの女の子と2人きりなんてどうすれば良いのか分からない。
それにしてもこの人、本当に生徒なんだろうか?
全然見えないんだけれども?
「ねぇ。アンタも3年生?」
「え?あ、うん」
このタイミングで話しかけられたら帰るわけにもいかず。
俺は中途半端な姿勢のままスケッチブックに視線を落とした。
「私3組だよ。名前はねー、綾乃」
「え、同じクラス?」
同じ3年3組の生徒?
全く気がつかなかった。
クラス替えしてからまだ2ヶ月だし、その前にクラスメイトの顔なんてほとんど見てないもんな。
「同じクラス?いたっけ!?」
「一応」
「嘘~?こんなイケメンいたら忘れないハズなんだけどな?」
綾は冗談ぽくそう笑って俺の眼鏡を取り上げた。
「ほら?眼鏡外せば意外とイケメン」
「!」