真っ白なキャンバス(仮)
急接近した綾乃に俺は思わず赤面する。
俺は慌てて綾乃から眼鏡を奪い返した。
「フフッ。まあ綾乃、3年生になってから数回しか学校来てないんだけどねー」
綾乃は悪戯っぽい笑顔でそう言い、また新しいタバコに火を付ける。
「あーあ。ここ、私だけの秘密基地だったのに」
「…」
それは俺の台詞なんだけど?
言えるはずもない言葉を飲み込んで、俺はまたキャンバスに視線を落とす。
…これが俺と『綾乃』との出会いだった。
それから少し後に分かったことだけど、綾乃は窓側の一番後ろの席。
いつも空いてるから少し気になっていたんだけど、そこが綾乃の席だったらしい。
時々しか学校に来ない綾乃。
その姿は独特のオーラを放っていて、誰ともつるまない"一匹狼"といったところ。
だけどあの容姿だから男子の中では話題になっているようだ。
*
「またアンタ?」
あの日から俺たちは何度も屋上で鉢合わせしてしている。
綾乃は教室に顔を出さない日も、何故かここには現れたりする。
「それはこっちのセリフ…」
「お、言うねー?」
いつものようにタバコに火を付けて、手すりに体を預ける綾乃。
「ほんっと好きだね?ここ」
「そっちだって」
「私はぁー、これ!ここでしか吸えないもん」
綾乃は指に挟んだタバコを俺に見せる。
「ああ…」
俺は納得して頷いてしまった。
どう考えても学校でタバコを吸ってることはおかしいんだけど 彼女はそれをあまりにも自然にやっているから。
…この貫禄は何なんだろう?
「ねぇ!ところでさ、名前は?」
「…やました」
「下はー?」
綾乃は小悪魔のような笑みで俺の顔を覗き込む。