真っ白なキャンバス(仮)
余裕たっぷりな表情。
いつもこうやって男を落としているのだろうか?
でも俺にはそんなの通用しない。
「海斗だよ」
「カイト?」
「そう」
「男らしくてかっこいい名前!見た目とギャップありすぎー!!」
「…」
「嘘だよ。怒った?」
「別に…」
「嘘だからね。前も言ったでしょ? 海斗、眼鏡外すと結構イケメンだって」
「…」
綾乃の言葉を無視して扉のほうへ向かって歩き出す。
「海斗ってさー、友達いないでしょ?」
「え?」
俺は綾乃の言葉に振り返った。
「当たり?だって無口で無愛想でー、人間嫌いって感じ?」
「…」
「あ、また怒った?」
「別に」
ちょっとムッとしたけれど、当たってるだけに何も言えない。
…そうだよ。
俺には友達なんか1人もいない。
そんなの面倒なだけだし。
だけど
今までの人生の中でそういう存在は1人だけいたんだ。
"キョウヘイ"っていう友達がさ。
俺はふと昔の記憶を思い返したー。
・
・
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あれは小学校4年生の夏休み。
俺は1歳年上の少年"キョウヘイ"と出会った。
彼はこの街の住人ではなく、夏休みを利用して祖父母の家に来ていた。
俺と同じように物静かで友達もいなさそうな奴。
ネガティブで行動力がなくて、おまけにすぐに泣く。
ようするに"パッとしない少年"だったキョウヘイ。
まるで自分の分身を見ているかのような彼に俺は無性にイライラした。
そして、俺は初めて人を怒鳴ったんだ。
『男のクセにめそめそ泣くなよ!』って。
それは自分への言葉でもあったんだけど…。
それから俺たちは残りの夏休みを毎日2人で過ごすようになった。
海へ行ったり花火をしたり、冒険をしたりー。