真っ白なキャンバス(仮)

本当に毎日が楽しかった。
毎日が宝物だった。
あんなに笑うことは多分もうないと思う。
それは俺の中にある唯一の【友達】との思い出。
ひと夏の大切な思い出なんだ。
それ以来、二度とキョウヘイとは会うことはなかったけどー。


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「まあ綾乃も人間嫌いだけどね!」

綾乃のその声で、俺は思い出の世界から現実へと引き戻された。

「本当に信用できるのって世の中に1人だけだもん」
「?」

1人だけって?
俺はその1人すらいないんだよ。

「何だか似てるね。綾乃と海斗」
「…そう?」
「うん。そんな気がする」

1人上機嫌な綾乃を横目に俺は屋上を後にした。

…やっぱ苦手だ、あの子。
どこが似てる?
俺とは全く違う世界にいるような人間じゃないか。
自信満々で自分大好き人間。
確かに学校では誰ともつるまない"一匹狼"かもしれない。
だけど、それは自分から人を遠ざけてるだけ。

綾乃は色んな人に愛されて生きてきた顔をしてる。
コンプレックスも暗い過去もない、恵まれた女の子。
…俺とは違う。

せっかく見つけた"秘密基地"も意味がなくなってしまった。
もう屋上に行くのやめようかなー。







「山下君!」


放課後の美術室。
美術部の顧問、中川先生に呼ばれ俺は顔を上げた。
中川先生は20代後半の美術科教師。
美人で明るくて生徒にも慕われている。
こんな俺のことも何かと気にかけてくれているし。

「どう?調子は」
「あまり進んでなくて…」

コンクールに出すための油絵を描き始めた俺。
なかなか筆が進んでいないことを中川先生は心配しているようだ。

「そう。あまり気が進まない時は休んだほうがいいわよ」
「はい」
「絵ってその時の心が表れるものだからね」

それが中川先生の口癖だ。
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