真っ白なキャンバス(仮)
「そんな時は絵から離れてパーッと遊ぶとかね!」
「はい」
「私なんてそう言って遊んでばかりだったけど」
中川先生はそう言ってフッと優しい笑みを見せた。
俺もつられて少しだけ微笑む。
中川先生は俺が学校で唯一、気を許して話が出来る存在だ。
まるで姉や母親のような… そんな人だ。
美術室を出て、俺はいつもの薄暗い階段に足を掛けた。
『もう来ない』なんて思ったものの結局ここに足が向いてしまった。
「あー、海斗だぁ♪」
案の定、屋上には先客がいる。
「ちょっと久しぶりだね?」
「まあ」
綾乃の他にもう1つの影が見える。
彼女の隣に1人の男子生徒がいることに気づいた。
「…?」
見知らぬ人物の姿に、俺は少しだけ警戒する。
アコースティックギターを片手にニコニコと笑っているその男。
いかにも軽そうで俺の苦手なタイプだ。
「もしかして噂の眼鏡イケメン君?」
「そうそう。眼鏡外すと結構イケてるって綾乃が見抜いたんだよ」
「ふーん。まあ俺ほどではないけど」
俺を無視して次々に勝手なことを言う2人。
一体何なんだ?
ボーッと立っている俺を綾乃が笑顔で見る。
「海斗。これ、中学からの友達!恭平だよ」
「これとか言うなよ。…初めまして!桜田 恭平でーす」
…キョウヘイ?
その名前を聞いて昔の記憶がフラッシュバックする。
子供の頃、一緒に夏を過ごしたあの少年と同じ名前。
だけど全然違う。
あの内気な"キョウヘイ"がこんな風に育ったとは思えない。
それにあの少年は俺より1歳年上だったんだから。
顔は少し似ている気がするけど…。
なんせ数年前のたった2,3週間の友達。
思い出は強烈に残っていても、肝心な顔の記憶はもうぼやけていて思い出せない。