牡丹町の先生
坂を上り続けること5分。
今度は立ち止まることなく、男は家の門と思われる扉を開き中に入って行った。
表札には"藤巻"と書かれていて、だから藤と呼ばれていたのかと納得した。
て、いうか、ここって...
平屋の一戸建て、庭付き。と、いっても伸びっぱなしの雑草畑だけど。
や、そうじゃなくて、
この家って、だって...
「おい」
「は、はい」
「家事は出来るのか?」
「はい、人並みには」
「料理は?」
「で、出来ます」
「家の掃除洗濯と、毎日朝夜の食事。で、一部屋月1万」
それってもう、主婦じゃん!
突っ込みたくなる気持ちを抑えて男を見つめ返す。
この家に、この男以外の人がいる様子はない。
でも、それって、この男と2人でこの家に住むって事でしょう?
カラカラカラと扉を開けて家の中へ入って行く男の後を急いでついていく。
廊下の角を曲がった先の襖を開けると、7畳程の綺麗な和室が広がっていた。
「この部屋を好きにしていい」
本当に?!
思わず声を上げそうになる気持ちを抑えて、唾を飲む。
でも、男の人と2人で暮らすなんて、身の危険を感じる...ような。
チラッと男を見上げてみる。
腕を組んで壁にもたれかかり、だるそうに大きな欠伸をしている。
うーん、でも、なんか、大丈夫そうかも。
「どうする?」
うっ、
私を見据えるだるそうな彼の瞳と目が合う。
「えっと、」
「ん?」
「宜しくお願いいたします」
ぺこり頭をさげる。
ちょっと気になる所もあるけれど、ここをでても、行く先もないし
家事も料理も嫌いじゃないし、なんてったってこんなに広い部屋を月1万円で借りられるなんて話無い。
もしなんか嫌になったら、逃げちゃえばいいし。