牡丹町の先生





「どこかへ出掛けるなら、戸締りして行けよ。スペアが玄関にある」

「は、はい」



そう言う藤巻さんは朝のニュース番組から目をそらす事無く、その横顔はなんとも無関心なものだと思った。





藤巻さんは私に何も聞いてこない。


なぜこの町に来たのかとか、

目的は何なのか、とか、

お前は何者なのか、とか、

普通は絶対気になると思うんだけど。




私だったら、同じ女だったとしても絶っ対自分の住んでいる家なんかいられないけどな。



だって、自分で言うのもなんだけど怪しすぎじゃない。

頭のおかしい奴だって思われても納得出来る。

もしかして、新手のドロボーだったら、とかさ。



何にも知らない赤の他人を家に入れて一緒に暮らすとか、

その人を家に残して1人に出来るって、相当な信頼関係がないと絶対に無理。




.....変な人。


優しい人だと思うけど。

自分の生活の中に、急にポンと知らない女が入って来たのに、全く動揺する事もなく受け入れられるなんて。





作ったはいいがあまり食欲はなく、チラリと彼の横顔を盗み見る。


藤巻さんはこっちを気にする様子もなく、パクパクと朝食を平らげていく。

美味しいとも、不味いとも言わず。






....私は、あなたがどんな人なのか、だいぶ気になるんですけど。







「19時過ぎには帰る」

「あ、分かりました」



キレイに空になったお皿を残して立ち上がる藤巻さんとは、最後まで目は合わなかった。

大きな欠伸をしながら私の横を通り過ぎる藤巻さんの姿が見えなくなった後、私はホッとする。


向こうは何にも気にしてないみたいだけど、私はやっぱり気になるし、やっぱり知らない人の家に居るって居心地の良いものじゃない。







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