牡丹町の先生
「あなた、誰」
会社の飲み会の帰り道で、ふとガラスに映る自分が目に入った。
タバコの匂いが髪にうつってすごく不快な匂いがするし、この時間の繁華街はどこも酒臭い。
0時を過ぎるというのに、あっちもこっちも人、人、人。
もうすぐ終電という事もあって、駅へ急ぐ人達の歩くスピードは早く肩がぶつかる事も少なくない。
息苦しくなって上を見上げても高いビルの隙間からしか空は覗けなくて、もちろん星なんて一つも見えない。
週末っていうのと、お酒を飲んだせいもあり足が浮腫んで履きなれたはずのヒールで靴擦れ気味。
帰りの電車はもちろん満員で、ぺちゃんこになっちゃうんじゃないかってくらいプレスされる。
子供の頃の私が想像してた23歳って、こんなんじゃなかったなぁ。
もっとなんか、キラキラしてて格好良くて
"大人"って言葉がちゃんと似合ってる自分になれてると思ってた。
最寄りの駅から家まで徒歩10分。
坂は多いけど、近くにコンビニもスーパーもクリーニング屋もあるし土地的には悪くない。
この時間でも街頭のおかげで夜道も明るく、人通りも多いから安心。
「ただいまぁ〜」
誰もいない部屋に投げかける。
1DK、風呂トイレ別で家賃6万。
ピアスを外しながらメイクを落としに洗面台に向かう。
「似合わないなぁ」
鏡に映る自分を見て失笑した。