牡丹町の先生
仕事を辞めて、携帯を解約し、家具を全て売って必要なものだけボストンバッグにつめて家を引き払った。
なんて思い切りがいいんだろうと、自分で自分に関心する。
たまたま当たった宝クジ100万と、貯金の100万、これが私の全財産。
たかが100万、この先の事をよく考えてみたらだいぶ心細い。
でも、されど100万円。夢の宝クジで私は自分を変えるチャンスを掴んだ。
私は、うんざりするほどつまらない昨日までの自分を捨てて、ゼロになってみたかったんだ。
「甘味処ぼたん...」
風に揺れる深い緑色ののれんが目に止まり思わず立ち止まった。
小さなお店の脇に、首輪のついたブチ模様の猫ちゃんがぐでっと寝ている。
看板猫、、、だったりして?
私の大好物は甘いもの。
ショートケーキや、モンブランなんかも好きだけど、群を抜いて餡子を使ったお菓子が大好きだったりする。
ここ最近は、自分が和菓子好きだって事すら忘れてたけど。
お腹はペコペコだけど、トキメク胸を押さえきれず思わず、のれんをくぐり扉をあげてしまう。
カラカラカラ...
私、ちゃんとした和菓子屋さん、なんて来たことあったっけ。
有名なパティスリーなら、この間も誘われて行ってきたけど。
去年、友達と京都へ旅行に行った時も、有名な和菓子屋さんに行きたかった事を最後まで言えず悔やんだ記憶がある。
「わぁ....!」
小さな木製のショーケースにズラリと並ぶ和菓子達に思わず声を上げる。
洋菓子屋さんみたいな華やかさこそ欠けるかもしれないけど
上品で、可愛いくて、シンプルだけど繊細で。
こんなに、心を打たれるほど感動したのも、いつぶりなんだろう。
季節の練り切りや、お饅頭、どら焼きや干菓子まである。
「いらっしゃいませ」
お店の奥から、紺色の着物を着た可愛らしいおばあちゃんがひょこっとでてきた。
「こ、こんにちは!」
「あら、珍しいわ。こんなに可愛くてお若いお客様。それにすごく大荷物」
ニコニコしながらも、とても驚いているおばあちゃん。