牡丹町の先生
馬鹿野郎にも程がある。
思いつきで仕事も家も携帯も無くすとか。
馬鹿だ。
私。
「あら、とっても素敵ねぇ」
思ってるものとは違うおばあちゃんの言葉に耳を疑う。
おばあちゃんの優しい笑顔からは、とても嘘を言っているようには見えなくて。
「えっ、と。素敵...?」
「とっても楽しそうじゃない?私ももう少し若かったら一緒にやりたかったわぁ」
きゃっきゃとはしゃぐおばあちゃんにポカンとしてしまう。
楽しそう...か。
「おまちどうさま」
スッと目の前に出されたわらび餅と冷抹茶を見てテンションが上がる。
「おいしそう!」
「住む家が無いのは困るだろう?うちの部屋を貸してあげようか?」
わらび餅を持ってきてくれたおじいちゃんもまた、優しそうな笑顔が素敵な方だった。
なんで、初対面のこんな怪しい女なんかに、そんなに優しくしてくれるんだろう。
なんか、涙腺が緩んできちゃうよ。
「あの物置部屋を片付ければねぇ、狭いけど寝れないことはないわよねぇ」
「うーん、そうだなぁ、でもホコリっぽいよなぁ」
2人して、本気で私を住まわせてくれようとしているらしい。
こんなに親切な人達、出会ったことない。
「大丈夫です、自分で...__」
ガラガラガラ!
私の声を遮るようにしてお店の扉が開いた音がした。
「ばぁちゃん、どら焼きと苺大福...」
掠れていて低い声が店の中に響く。
常連さん、かな?
そしてその男の人の声を聞いた2人はパァッと明るい表情になり「藤がいた!」と声を揃えてパタパタと入り口の方へ走って行った。
"藤...?"
自分のいる場所からじゃその男の人の姿は見えず、そっと部屋を移動して、顔だけヒョコっと覗かせてみる。