牡丹町の先生





「藤、アンタ、アパートの大家やってたろ」

「部屋空いてないのかい?」


「は?何だ、急に....」


よれよれの黒いVネックTシャツにジーパン、そしてなぜか下駄。

高身長で肩にかかる位の黒髪をハーフアップにしている。

鼻が高くて切れ長の瞳、唇は薄くてヒゲは綺麗に剃ってあって肌は白い。


なんか綺麗な人...だけど、この和菓子屋さんにはちょっと似つかない怖そうな人。



「一部屋くらい空いてんだろ、ボロいし」

「ボロくねーよ。なんだ、家放火でもされたか?」

「違う、あの子住まわせてやってくんないか」




男の人が、おじいちゃんの指差す方へ視線を辿って初めて、バチっと目があった。

そしてジッと見つめ合うこと、約10秒。




「...柚、でかくなったな」

「孫はまだ3歳だ」




孫、って...


クエスチョンマークが頭の上に浮いてる男の人は未だこの状況が理解出来ないのか私を見つめている。



「だれ?」

「あ、千堂紬、です」

「うん、で、だれ?」



私を指差しておじいちゃんたちの方へ視線を戻す男の人。



「紬ちゃん、家も仕事もねーんだと」

「は、え、ニート?」

「違うわよ、自分探しの旅なのよ」

「は?意味わからん、無理」


面倒くさそうに首を横に振って、どら焼きと苺大福、とおばあちゃんに向かって呟いた。



「紬ちゃん、住まわせてあげて」

「部屋空いてない」



もういいです、と言おうとした時、おばあちゃんが男の人に声を上げた。


「紬ちゃん住まわせてあげたら、この先苺大福とどら焼き、お代はいりません!!」

「「ぇえ?!」」


おじいちゃんと私が声を揃える。

自信満々でドヤ顔のおばあちゃん。

そんな事で、部屋一室がどうにかなるわけないじゃない!



ていうか、本当にもうこれ以上は...




「おい、女」

「え、わ、私?」



不機嫌そうに唇を噛む男の人と再び目があう。


そんなに睨まれたら怖いんですけど..!





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