お説教から始まる恋~キミとの距離は縦2メートル~
なかったことにしたかった。
夜中に歌ったことも、それが聞こえていたことも。
面と向かって注意を受けたことも、ぜんぶ。

冷静になって考えれば考えるほど、わたしは至極まっとうなご忠告を頂戴したのだ。
あの男性は少々感じが悪かったとはいえ、何も悪いことはしていない。
悪いのはわたしで、悪いなら、行動を改めなければならない。

頭でその図式を描くことができても、自分のこととして受け入れられないところがあった。
人に迷惑をかけて叱られたということを、素直に受け入れられない。
なかったことにしたい、なんて思うのがその証拠だ。

自分はこんなで、社会からもはみ出ていて、だからしょうがない。
そんな子どもでもしないような言い訳を繰り返している自分が情けなかった。


…Yシャツ、干してたな。あの人。

会社員だろうか。
きっとまっとうに社会でご活躍されている方なのだろう。
部下とかもいて、偉そうに指示出したりしてるのかな。

あぁいけない、また卑屈っぽくなってきた。
あの人を悪者にして、自分を正当化しようとしている。
どうして自分はこうなんだろう。


ちゃんと朝起きて、ごみ出しできたご褒美の朝マッツだったが、全部食べ終えても、ちっとも味がわからなかった。

空は、どこまでも悲しい薄い青。
日が高くなり、目を開けていられない。

自分が惨めでしょうがなかった。


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