お説教から始まる恋~キミとの距離は縦2メートル~
しばらくイライラしていたが、少し時間が経つと、今度は逆に何かされるのではないかと心配になってきた。

うちの騒音のせいで眠れなくて、イライラして、我慢できなくなって殴り込んで来たらどうしよう。
殴り込んでこなくても、ポストに虫の死骸入れたり、自転車のかごに汚物突っ込んだり、サドルにハチミツぬられたりして…うわぁ、嫌だなぁ。恐怖過ぎる。

何といっても、あの位置にベランダがあるのは、強い。
わたしのように暇人ではないだろうが、たとえば休みの日にずっと外を気にしていて、誰か通るたびにカーテンから覗けば、ピンポイントで私に声をかけることが可能だ。
顔がバレてしまっているのは、本当につらい。


鍋を元の位置に積み上げ、また崩れるのも時間の問題だなと思いつつトイレに入る。

インテリメガネは、もう眠っただろうか。
鍋を落とすまでは比較的静かに過ごしていたつもりだったが、彼はこの時間まで起きていたのだろうか。
わたしだったら、眠っていて大きな音がして目が覚めても、2秒で眠りの世界に舞い戻る自信があるが…。
寝ぼけながらに怒鳴ったのか、ずっとイライラしながら眠れずにいて怒鳴ったのかでは、なんとなく意味合いが違うような気がする。

…まぁ、怒らせたことに変わりはないけど。

もし不眠症なら、可哀想だなぁ。
寝なくてはいけない、でも眠れないところに上の階から大きな音が聞こえてきたら、そりゃイライラするだろう。


まだ眠くはないが、今日はおとなしく眠ることにしよう。
報復も怖いし。

そう思いながらトイレのドアを閉めた時、絶妙なバランスで積み上げていた鍋がゆらりと揺れた。

しまった、油断した。

鍋が床に崩れ落ちていく。
なんでか知らないけど、こういう時ってスローモーションになるよね。

暢気にそんなことを思っていたら、
階下から、獣がうなるような怒号が響いた。


ほんとに、わざとじゃないんですよ…?



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