お説教から始まる恋～キミとの距離は縦２メートル～

電気を消して布団に横になると、下の階から咳きこむような声が聞こえ、反射的に気配を消した。
まだ、起きていらっしゃる…。

咳きこむ声って、そんなに大きな音じゃないよな。
わたしがＳＮＳを見て歓喜の声をあげるのと、どちらが大きいだろう。
そもそも、下から上に響く音と、上から下に響く音って、どっちの方が響きやすいとかあるのだろうか。

スマートフォンで、『アパート　騒音』と検索をかける。
そうすると出るわ出るわ、みんなの知恵共有サービス、まとめサイト、防音グッズの販売サイトまで。
関連検索ワードも、『対策』『苦情』『仕返し』『警察』とずらりと並ぶ。

気になったものをいくつか読んでいくと、木造建築のアパートの場合、下の階から上の階に響く音よりも、上の階から下の階に響く音の方が大きいらしい。
中には、えーっ、そんなのまで聞こえるんだ…という内容もあり、うちのアパートはまだマシな方かもとすら思って、いやいや、わたしは加害者なのだったと思い直す。

これまで下の階から聞こえてきた音といえば、玄関を開け閉めする音、洗濯機を操作する音、テレビの音、トイレを流す音。
このくらいだろうか。

引っ越してきた当初は全く気にしていなかったが、一回注意を受けてから周囲の生活音が気になるようになって、階下の住人の存在も感じるようになった。


しばらくして、下の階からまた音が聞こえてきた。

今度はゴォォンとか、ブゥゥンという音に近い。何の音だろう？
掃除機やドライヤーの音にしては控えめだし、ましてや何時だと思ってんだと怒鳴った人が、こんな時間に掃除もドライヤーもしないだろう。

…携帯電話のバイブ機能だろうか？
気のせいかもしれないが、振動が伝わってくるのか、若干床が揺れているような気がする。
もしかしたらすごく弱い地震がおきているのかもしれない。

しかし止まらないな。
アラームの代わりにしても、音に敏感な人がこんなに長く止めずに放っておくだろうか？

そこまで考えて、ようやくハッと心当たりを見つけた。


もしかして：いびき…？