お説教から始まる恋～キミとの距離は縦２メートル～

まるで猫が獲物を見つけた時のように、じっと音の出る先を見つめた。
忍び足で音をたてないようにベランダに近づく。
不用心なことに、窓は開けて網戸のみにしているようだ。
グオォゥ、ブゥゥォンとうなるような低いいびきが、規則的とも不規則的とも言えるようなテンポで聞こえてくる。
いつもよりも大きな音で、ハッキリと。

クッと笑う息が鼻から漏れそうになるのを頬の筋肉で抑えながら、南向きのベランダの隣面、部屋の西側にもまわってみることにした。
予想通り、うちと同じ位置に窓がある。

この窓と隣家との距離は、わずか９０ｃｍほど。
北側にあるトイレの窓から見える景色をパズルのように当てはめてみた結果、ここを抜けると隣家の裏庭に出るはずだ。
おそらく、普段は隣家の住人しか通ることのない隙間だろう。

そんな隙間に足音をたてないように入る様子は、さながら泥棒か忍者のようだった。
こちらの窓もベランダ同様網戸のみにしてあり、レースのカーテンがすぐそばで揺れている。

ゴォォン、ブゥゥゥン、グオォゥ…。

思わず顔を歪めて表情のみで笑ってしまうほど、よく眠っている。
いや、いびきをかいてる時ってよく眠れてないんだっけ？

いずれにせよ、今日はいつもの縦２メートルの距離ではない。
横２メートルの距離に、インテリメガネがいる。
この網戸と、レースのカーテンの向こうで、さぞ無防備に眠っているのだろう。
それが、どうしてこんなに可笑しいんだろうか？