お説教から始まる恋~キミとの距離は縦2メートル~
サッシに触れている指先に右から左へ力をこめると、指はサッシの上をつるりとすべった。

そうか、いつもはくぼみに指先を引っ掛けるようにして開けているっけ。
いや?そもそも窓は開けても網戸を開けることなんてないか。
この家だってそうだろう。
普段から開けることがなければ、少しかたくなっているのも頷ける。

もう少しだけ、爪を引っ掛けて…。


クュイッと小さな音をたてて網戸が揺れた、

瞬間。




「誰だ!」





ざらりとした低い声が鋭く突き刺さり、思わず体が飛び上がった。
ひっと短い悲鳴を上げてしまったかもしれない。
サッシに触れていた指先は凍りついたたように固まって動かず、これから玄関のドアチャイムを押す人みたいな恰好になっている。

カーテンの向こうで、ドタッと床が響く音がした。

起き上がったんだ。
こっちに来る。
やばい。
どうしよう。

息をひそめる?
いや、逃げなきゃ。

どこに?
裏庭?

いいや、完全に不法侵入だ。
警察でも呼ばれたら大事になるかもしれない。

自分の部屋もダメだ。
階段をのぼっていく音が聞こえてしまうだろう。


それならもう、


路地に逃げるしかない!





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