お説教から始まる恋~キミとの距離は縦2メートル~
一体何者なのだろうとじろじろ観察するわたしをよそに、インテリメガネは手すりを軽々と乗り越え、ベランダに着地した。
こういう身軽さにしろ、冷たく感情のない声にしろ、ピクリとも動かない表情にしろ、まるでサイボーグのようだ。

…生きた人間じゃなかったりして。

自分で思っておきながら得体の知れなさに背筋がぞわりとする。
ゲームや漫画の読みすぎだろうか。


奥行きのない狭いベランダで、男と二人。
しかも前後に重なるように立っているため、距離が…近い。
背後に迫る熱を感じて、ドキっとする。

あぁ。
ちゃんと、生きた、人間だ。


「何をボサっとしている。入れ。」
「あ、あ、ごめんなさい。」

お邪魔します、と小声で言って、中に入った。
このアパートの階段は、日が落ちている間は灯りがつくようになっている。
その光がベランダから部屋にも差し込み、うっすらとではあるが中の様子が確認できた。

やはりうちと同じ間取り。
なんというか…無駄のない部屋だ。
ベッドの上のタオルケットが蹴飛ばされてぐちゃっとなっているのを除けば、どこもきちんと整頓されていて、生活感がない。

「ちょっと待っていろ。」

そう言ってわたしを残し、インテリメガネは部屋の奥に消えていった。
向かう先は、おそらく風呂場だ。
足を洗うのだろう。
自分が言うのもおかしいが、捕まえた不審者を目の届かないところで野放しにしていいのだろうか。
上の階の住人とバレてしまっている以上、今更逃げる気もおきないけれど。

< 49 / 51 >

この作品をシェア

pagetop