お説教から始まる恋～キミとの距離は縦２メートル～

部屋の窓を開けてまわると、五月の爽やかな風が吹き抜けた。
建物の構造上、両隣に部屋はない。
トイレやキッチンも含めると四面に窓があるということもあって、風通しはかなりよかった。

いつから空いていた部屋なのか、天井や壁には蜘蛛の巣が張っている。
床も埃でざらざらしており、素足で歩くと、すぐに足の裏が真っ黒になりそうだ。


「よーし、引っ越し屋さん来るまでに掃除しよ！」


マスクをつけ、リュックからはたきを取り出し、蜘蛛の巣やエアコンの上にたまった埃を払っていく。
掃除機はないので、クイックルワイパーで床を拭いた。何度も何度もシートを変えて、ようやくピカピカになったフローリングに、ごろりと寝転がる。

何もない部屋。
新しい生活。

大きな家具や家電は、全部元彼の家に置いてきた。
同棲を始めるときに、ほとんど彼のお金で揃えたものだったからだ。

洗濯機も、テレビも、冷蔵庫もない。
最低限必要な服や食器は実家で預かってもらっている。
今頃、引っ越し業者が引き取りに行っているはずだ。