お説教から始まる恋~キミとの距離は縦2メートル~
取り残されて突っ立ったまま待つのもと思い、ベランダの窓際に腰を下ろした。
自分がいつも見ている景色と、同じようで、違う。
初めて入る他人の部屋で、薄暗い中こうしていると、現実に起きていることかどうかわからなくなりそうだった。
ぼんやりと天井を眺めながら、いつもわたしはこの上の空間で生活しているのだ、と思うと、不思議な感じがする。

風呂場から戻ってきたインテリメガネは、暗がりで膝を抱えて座るわたしを見て、そういえばという表情で照明をつけた。
個人的には、あの薄暗さ、とても心地よかったのだけれど。


「お名前は。」
「え?」
「お名前は?」

ざらりとした低い声が、ぶっきらぼうに、丁寧な言葉で私の名前を尋ねたので、答える前にきょとんとしてしまった。
なんというか…違和感しかない。

「お名前は?」
「あ、な、仲田、莉那と、申します。」
「ナカタさん。」

名前を確認すると、座布団を敷いて小さな座卓のそばに座るように促した。
確かに今のわたしは、部屋のすみっこで震えているチワワのようだ。

…ちょっと図々しかったか。
オドオドした引きこもりのアラサーずぼら女、謹んで座布団に移動させていただきます。

「それで?なぜ窓のところにいた。」
「え」
「うちに何か用があったのか、と、聞いている。」

ため息まじりに聞く様子は、怒っているというより呆れているようだ。
眼鏡の奥の瞳が、じっとこちらを見つめている。

「用は…ないです。」
「じゃあどこに用事があったんだ。向こうの家か。」
「ちっ、違いますよ!」

なるほど、向こうの家に侵入しようとしたとも思われてしまうのか。
それはマズイ。

何か納得してもらえるような、それらしい言い訳はないだろうか。
窓から落とし物をして探していた、とか…?
いや、それなら今落とした物を持ってないと不自然だろう。
手に持っているのは、傘と、コロッケパンと、カップラーメンだ。
どう頑張っても、落としようがない。

諦めたわたしは、本当のことを話すことにした。

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