例えば危ない橋だったとして
11月も最終週に入った。
その日は、唐突にやって来た。
いつものように営業部門へ電話で確認を取っていた。
相手は30~40代くらいの男性と思われた。
「依頼内容に地下の駐車場内と記載して頂いているんですけれども、この場所は配管が通っている所なんでしょうか?」
『現場は見に行ってますんで、大丈夫です』
「では、ビル設備からの配管が通っているということでよろしいでしょうか?」
『設備がどうかはわからないけど、確認してるから大丈夫ですよね?』
「万一配管がされていないということになると、ビル設備が使用出来ませんし、工事照会をかけた方が安全だと思います。もしくは、もう一度詳細をご確認頂けないでしょうか?」
『いやだからさ……見に行ったって言ってるんですけど』
電話の向こうから不穏な空気を感じ取ったが、こちらも責任が掛かっているので折れる訳にもいかない。
「事故になる可能性がありますので、再度ご確認を……」
『だから、登録してくれたら良いって言ってんだ!』
瞬間、わたしの心臓は縮み上がった。
……なんで? 怒鳴られたの、今?
「……あの……今、登録するための確認をですね……」
落ち着いて。こんなことくらい何でもない……
そう心の中で唱えながらも、受話器を握る手が汗ばんでくる。
どうしよう。また怒鳴られたら。
怖い──
相手から反論が飛んで来そうなタイミングで、左手に持っていた受話器が上に引っ張られた。