例えば危ない橋だったとして

「あ、起きた?」

その人が、黒澤くんだったから。
な、なんで? そう過ぎったが、すぐに思い直した。
……わたしの教育係だから、そういうこともあるか……。

何となく恥ずかしくて、布団を鼻まで被る。

「……あのー、わたし倒れて…?…」
「うん、立ち上がったと思ったらぶっ倒れるから、びっくりしたわ。看護師さん今外してるけど、寝不足と無理し過ぎじゃないかって言ってた」

そりゃ、目の前で人が倒れたら驚くに違いない。
考えた時から、急速に気持ちが落ちて行く。
わたし、またやってしまったんだ……仕事に支障を来す事態に陥ってしまった。
社会人として、未熟過ぎる。

落ち込んで瞼を伏せながら、返した。

「すみません……とんだご迷惑を」
「ゼリーとかスポーツドリンク買って来たから、良かったら食べて。とりあえず、もうしばらく休んでな」

先程からの発言の内容から察するに、此処へ何度か足を運んでくれたのだろうか。
わたしを運んでくれたのは、もしかして黒澤くんなのだろうか。
……それは、同僚としての優しさなの?

「……ありがとう」

そうだとしても、黒澤くんの優しさに、胸が熱くて泣いてしまいそうだった。
僅かに鼻声が混じり、気付かれたくなくて布団を頭まで被った。
頭上に黒澤くんの掌の気配がしたような感覚があったけれど、思い違いだろうか。
頭をなでようとして、やめた?

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