例えば危ない橋だったとして

1時間程して、上半身を起こすと、ずいぶん楽になっていた。
これなら仕事も出来るだろう。

せっかくお見舞を貰ったから頂こう。
ベッドから降りて、看護師さんに声を掛ける。

「あのー、此処でゼリーとか食べても平気ですか?」
「良いですよ」

看護師さんにも初めて会ったが、柔らかな雰囲気の優しそうな女性だ。
テーブルの前に座るよう促してくれた。
ゼリーを食べながら、改めて医務室全体を見回した。
会社の中にこんな空間があったなんて、不思議だ。

「さっきの……黒澤さんでしたっけ」
「はい」

看護師さんの問い掛けに、返事をする。

「榊さんのことすごく心配してましたよ。此処にも運んで来て貰ったんですよ、もう一人男性の方と一緒に。同じ部署なんですか?」
「はい、隣の席で……同期なんです」

やっぱり、黒澤くんが運んでくれたのか……。
想像すると、腕や脚に黒澤くんの体温が残っているような錯覚が起こり、胸が音を立てた。
重かっただろうし、恥ずかしいけれど、すごく嬉しい。

「倒れるくらいって、きっと何かストレス掛かってると思うんですけど、仲間には恵まれてるみたいで良かった」

看護師さんの柔らかな微笑みに、心が暖かくなる。

……変なの。そのストレスの原因は黒澤くんだというのに。
傍からは、そんな風に見えているのか……。

だけど、今日の黒澤くんは本当に優しかった。
痛いくらい。

嬉しさと切なさで、頬が熱く、胸元は痺れるようだった。

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