例えば危ない橋だったとして

考えかけて、頭を左右に振った。

「すいませんっお冷下さい」

冷や汗をかきながら、急いで店員を呼び止めた。

「大丈夫? 回ってきた?」
「うん、ちょっと……」

運ばれてきた水を喉に流し込み、呼吸を整えた。
店内の景色をぼんやり眺め、いくらか頭が冴えて来たような感覚がする。

危ないところだった……甘い誘惑に乗せられるところだった。
あんなの社交辞令なんだから! 黒澤くんにとっては日常茶飯事の、挨拶みたいなもんだ!
恋なんかしないって、決めたところじゃないか。

「ごめん、わたし飲み過ぎだね、迷惑だよね絡まれて」

努めて冷静に笑顔を作った。

「俺は……もっと見せて欲しいけど。俺の知らない榊を」

頬杖を付いて、その切れ長の目でこちらに視線を送る黒澤くん。
落ち着けわたし……これは挨拶だから。

「そんな面白いもん無いよ?」
「酔ったらあんな風に甘えるの、彼氏にも?」

わたしはこの話題を終わらせようと努力しているのに、黒澤くんは話題を広げようとしている。
そんな目で見ないで欲しい。吸い込まれてしまいそうだから──

「……彼氏なんていないし」
「前はいたでしょ?」

「そりゃまぁ……。そういう黒澤くんは! 彼氏が他の女の子とこんな風に恋バナとかしてたら、良い気はしないと思うよ?」

わたしはこの完璧星人の歯の浮くような台詞の妨害を試みた。

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