例えば危ない橋だったとして

12月3週目のノー残業デー、我が部署の忘年会が催されることとなった。
仕事が長引いて出遅れてしまい、店に入った時には黒澤くんの斜め前の席しか空いていなかった。
やや躊躇したが、大人しく座る。

「お疲れ」

黒澤くんがわたしに気付き、挨拶してくれた。

「お疲れ……」

薄らと笑顔を返した。
倒れて以来わたしは、何はなくとも笑顔を心掛けるようにしていた。
黒澤くんを避けるのはやめた。
それは、心配してくれた彼に対して誠意がないように感じたのだ。


最初のビールが運ばれ、課長より乾杯の音頭が取られた。

この頃黒澤くんとは、仕事以外の話をすることはないけれど、お酒の席でなら少しは話せるような気がした。
最近、どんな風に過ごしてるの?
ご家族は元気?
……なんてことは、到底聞けないので、当たり障りのない話題を周囲の人たちに向けて発言した。

「もう今年も終わりなんて、早いですね」

「本当だねー。榊ちゃんも此処へ来てずいぶん経ったような気がしてるけど、まだ3ヶ月か」

隣の岩井さんが応えてくれる。

「まだまだわからないことだらけなので、ビシビシご指導お願いします」

笑顔を返したが、心は少し曇った。
この3ヶ月、色々な出来事が目まぐるしく駆け巡り、正直頭はパンク寸前だった。
思い耽っていると、黒澤くんと目が合う。

「仕事ずいぶん慣れたんじゃない」

話し掛けてくれて嬉しかったが、何だか胸が苦しい。

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