例えば危ない橋だったとして
目の前に、大皿に乗った揚げ出し豆腐が置かれた。
コースで頼まれているので、勝手に料理が出てくる。
小鉢に取り分け、周囲の人達に配る。
黒澤くんに小鉢を差し出した。
受け取ろうと黒澤くんが腕を伸ばした時、指と指が触れ合った。
「……ありがとう」
黒澤くんが受け取った手元を捉えながら、呟く。
……鉢を落さなくて良かった。
反射的に手を引っ込めそうになったが、我慢した。
こんなことくらいで、顔が熱くなって来た。
そんなはずはない。
これは暖房が効き過ぎているせいだと、自分に言い聞かせる。
男性社員の市村(いちむら)さんが、酔った様子で黒澤くんの隣にやって来て屈む。
「黒澤、呑んでるか~!?」
手に持ったビール瓶を傾けて、黒澤くんのグラスに向ける。
勢いよく流れ出過ぎたビールが、彼の持つグラスの淵まで到達する程に注がれた。
「溢れるっ」
思わず声を上げたが時既に遅く、勢い余って黒澤くんの膝の上に零れ落ちた。