例えば危ない橋だったとして

わたしの言動に、黒澤くんが反応した──

はっと我に返ると、市村さんが沢山のおしぼりを手に戻って来ていた。

「悪いな、手が滑って」

あまり大勢で寄っていても邪魔だろうと思い、自分の席へ引き上げた。
心臓はまだ、大きく鼓動を打っている。


わたしがちゃんと伝えれば、返って来るのだろうか。


瞬間、頭の中にぼんやりと浮び上がって来た思い。

わたしの発信したメッセージに、相手は反応する。
あの日。黒澤くんに手を払われた、あの時


黒澤くんに拒否されたと、思ってしまった。

違った。わたしが、先に拒否したんだ。


そういうメッセージを、黒澤くんに送ってしまった。
それに対して、黒澤くんは反応したんだ。


飲み会の様子を傍観するように、辺りを眺めた。
機嫌良く、お酒に酔い会話を楽しむ仲間達。

今頃、気付くなんて──
わたしは、何て愚かなんだろう。

人知れず、心の中に衝撃が広がって行った。

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