例えば危ない橋だったとして

自分の愚かさに落胆したわたしは、やけになったように生ビールを煽った。
突如として酒の勢いが進んだため、黒澤くんも周りにいた人達も唖然としていた。


じきに一次会はお開きとなり、二次会のカラオケに参加する人達で移動し始める。
断る理由はなかったので付いて行くと、黒澤くんの足もカラオケに向かっているようだった。

歩いている黒澤くんの後ろ姿を見ていると、急にわくわくして来た。
黒澤くんの歌声が聴ける……何かテンションが上がって来た自分を感じつつ、通された部屋の無難な位置に座った。
ドアの近くに腰を下ろした黒澤くんを、感づかれない程度に観察する。

最初は年長者やカラオケが好きな人から曲を入れ始めたが、遂にデンモクが黒澤くんに回った。
特に断る素振りも見せず、その画面に視線を注いでいる。
わたしはこの店でもビールを口に運びながら、黒澤くんを密かに目の端に収めた。
黒澤くんは数分画面を眺めたのち、本体に向けてボタンを押した。

テレビに映し出された曲名は、国民的ロックバンドのものと思われた。
わたしもこの曲は好きだ。黒澤くんと趣味が被っていたことに、胸を撫で下ろす。
嫌いな歌手だったらどうしようかと思った。特にどうしようもないのだが。

< 118 / 214 >

この作品をシェア

pagetop