例えば危ない橋だったとして
「俺もいないし」
予想外の返答に、わたしは目を丸くして声を上げてしまった。
「えっ! うっそー。なんで!? 選り取りみどりでしょ、黒澤くんなら」
「うーん。俺、ちょっとズレてるみたいだし」
どこが?
黒澤くんの返事が嫌味にしか聞こえず、わたしは少し唇を尖らせた。
すると黒澤くんが溜息を吐いて、こちらを凝視して来る。
溜息なんて吐くんだ……意外な仕草だと思い、わたしも視線を向けると、見つめ合うような格好になってしまった。
数秒が経過したと思う。耐え切れず視線を外した。
その時、黒澤くんの電話が鳴った。
携帯の画面を確認して、席を立つ。
「ごめん、ちょっと……」
わたしは頷き、黒澤くんは店の外へ出て行く。
「病院へは父さんが……」
扉が閉まる前、僅かに会話が漏れ聞こえた。ご家族だろうか。
ひとりになって、空中を眺めていると、少し冷静さを取り戻せた。
酔っている頭でもわかる。何だかおかしな空気だった……。
帰ろう。わたしは決意して立ち上がった。
変な妄想を始める前に、この場を終わらせよう。