例えば危ない橋だったとして

「ごめんなさい……」

見上げると、黒澤くんだった。
何故このタイミングで、顔を合わせてしまうのか。

「ごめん」

黒澤くんがわたしの目を見て言葉を発した。
わたしは目を逸らせずに、じっと見つめ返した。


目頭が熱い。そう感じ取った次の瞬間、涙が溢れてしまった。
まずい。焦って視線を外し、すかさず手首で涙を拭うが、止まらない。
黒澤くんの顔が、怖くて見れない。

「ごめん……ごめんなさい……」
「さか……」

「黒澤くんごめんなさい……傷付けてごめんなさい……！」

目元を手で拭いながら、子どものように泣きじゃくってしまった。
何してるの？ わたし。
こんなの、迷惑だよ……黒澤くんも困ってるに決まってる。


涙で輪郭が滲んだ、目線の先の黒澤くんのネクタイが、眼前に迫った。

「わかったから……！ 泣くなって……！」

後頭部の掌の感触と共に、視界が遮られた。
わたし、黒澤くんに頭を抱き締められてる……。

「く、黒澤くん……誰か来ちゃうよ……ひっく」
「うん……」

「ワイシャツに化粧付いちゃうし……」
「うん……」

黒澤くんは返事をしながらも、しばらく動こうとしなかった。