例えば危ない橋だったとして
数分が経過しただろうか。
わたしの涙は落ち着きを見せ始めた。
「……落ち着いた?」
「……うん、ちょっと……」
黒澤くんがようやくわたしの頭を離した。
やっと確認出来た表情は、冷静さの中に心配の色を帯びていた。
「……抜けようか」
「え……」
「その顔じゃ戻れないだろ。潰れたから送ってくって言って来るから」
なだめるようにわたしの肩に触れてから、踵を返し部屋へと戻って行った。
頭は混乱していたが、思考は働いていた。
黒澤くん、そんなことして大丈夫なのかな……ただでさえわたしが倒れた時とか、付いててくれて……。
こんなの、皆に疑られるんじゃないの?
考えている間に、黒澤くんがふたり分の鞄とコートを持って出て来た。
コートを受け取りお互いに袖を通すと、黒澤くんがわたしの手を取った。
「行こう」