例えば危ない橋だったとして
しかし、居酒屋へ移動する頃には、またもや黒澤くんのことを気に掛けていた。
もしかしたら、飲み会だけ来るということもあり得るかもしれない……
淡い期待を寄せていたが、黒澤くんが現れることはなく、皆でグラスを合わせた。
この際なので女子の幹事に聞いてみることにした。
「あのー、今日黒澤くんは? 来るって言ってたと思うんだけど……」
いかにも今思い付いたような体裁を装ってしまった。
「なんか昨日、行けなくなったって連絡あったみたいよ」
「……そうなんだ……」
すると、皆が話題に入って来た。
「もしかして、急に女の子と予定出来たんじゃないの?」
「大体黒澤くんが相手いない方がおかしい」
会話を耳に入れながら、わたしは引っ掛かりを覚えていた。
……そうなのだろうか。黒澤くんが先約をドタキャンしてまで女の子を優先するとは、わたしには思えなかった。
「いっちゃん、黒澤くんってやっぱモテるの? 今一緒に働いてるんでしょ」
わたしは同期の女子の間では『いっちゃん』で通っている。
「うん、周りの部署の人とか、他の階の人も話題にしてるよ」
返した笑顔は、苦笑いになってしまった。
すると、衝撃的な返答が、わたしの心に刺さった。
「今私、黒澤くんの元カノと働いてるんだ」