例えば危ない橋だったとして

女子のみならず男子からもどよめきが起こる。

「間部(まべ)っち、何それ! 詳しく!」

男子のひとりが興奮気味に身を乗り出す。

「新しく異動して来た子でさー、ひとつ後輩なんだけど、前は黒澤くんと同じビルに居たって。いっちゃんと入れ替りなんじゃないかな?」

目の前が暗く影を落として行ったのがわかった。

「そうだ、忘年会で一緒に写真撮ったんだ」

間部っちが楽しそうにスマートフォンの画面を皆に向けた。
またもやどよめきが起こる。

「めっちゃ美人じゃん!!」
「うわ~スタイル抜群! モデル!?」
「そりゃー黒澤くん程の人なら、このくらい綺麗じゃないと釣り合わないじゃん。納得」

本当に綺麗な子……女のわたしでも、見惚れるくらい。
黒澤くん、こんな芸能人みたいな子と付き合ってたのか……。

「いっちゃん、最近の黒澤くんの女性関係知らないの?」

唐突に話を振られ、皆が一斉にわたしに注目した。


「……全然知らない……」


声が裏返らないように、震えないように、笑顔が引きつらないように、全力で気を配った。
その一言に、全身全霊を傾け、切り抜けた。

「間部っち、この子紹介してよ!」
「え、君じゃ無理でしょ。黒澤くんと付き合ってた子だよ?」

「酷い!……」

皆の会話が遠のいて行き、そこからは急速に沈んで行った心を悟られないことにだけ、専念した。

< 132 / 214 >

この作品をシェア

pagetop