例えば危ない橋だったとして

家へ帰る道すがら、手に息を吐き掛け歩く。
ふと気配を感じ、頭上を見上げた。
細かな雪が降り出していた。

うわー……こんな日にホワイトクリスマス要らないよ……。
心の中で呟くと、一層悲しみが増幅して来るようだった。
熱くなって来た目頭から、涙が零れ落ちないように堪えた。


玄関をくぐると、「おかえり」とリビングからお母さんの声が響いたけれど、答えずに階段を登った。
部屋の内側からドアを後ろ手で閉め、暗い空間の中に立ち尽くす。
リュックを床に叩きつけたかったが、ウイスキーの瓶が割れたらもったいないなと過ぎり、やめた。

時刻は23時。恋人達にとっては最高の時間帯。
黒澤くんは今、何処で何をしているんだろう。


床に座り込み、静かに涙を流した。
しばらくの間、そこから動けなかった。

その頃の黒澤くんの想いなど知る由もなく、ただ見えている状況に打ちひしがれていた。

< 134 / 214 >

この作品をシェア

pagetop