例えば危ない橋だったとして

「へっ!?」

思わず頬に手を添えつつ、素っ頓狂な声を上げ、後ずさりしていた。
黒澤くんがじりじりと距離を詰めて来たから。

「どうしたの? 黒澤くん、酔ってる?」

こんな美しい人が、わたしなんぞに向かって何を言い出すのか。
わたしはなるべく語気を乱さないよう気を付けながら、苦笑いで誤魔化す。
動揺して物凄いスピードで脈打ち出した心臓の音を、悟られないように。

「酔ってない」

橋の柵までにじり寄られ、逃げ場を失う。

「ちょっと……落ち着いて」

わたしはみるみる赤くなった熱い顔を背け、胸の前に両手を広げ抵抗を試みた。
しかし右手首は掴まれて、左頬には彼の大きな掌がゆっくりと添えられる。

「落ち着いてる」

迂闊にも視線を合わせてしまい、その眼力に魔法を掛けられたように、うっとりと力が抜け、抵抗出来ない。
その力に身を任せてみたいような感覚に陥り、上手く判断が出来ない。

< 14 / 214 >

この作品をシェア

pagetop