例えば危ない橋だったとして

「では、私達はこれで失礼させて頂くが……」

黒澤くんのお父さんと挨拶を終えた課長と係長が、わたし達に視線を注いだ。

「あ、それじゃあわたしも……」

黒澤くんは長男で忙しいだろうし、今日の所は引き上げようとふたりに続こうとしたその時。


「待って」

黒澤くんの声に、驚いて振り向く。

「せっかくこんな所まで来てくれたから……少し話して来ても良い? 父さん」

黒澤くんがお父さんに問い掛ける。

「……構わないよ。親族皆で食事してるから、行って来なさい」

黒澤くんのお父さんはわたしを眺めた後、にっこりと微笑んでくれた。
若々しくて大人の色香漂う、優しそうなお父さんに、一礼する。


わたし達は葬儀会場の裏手の路地へ移動した。

「黒澤くん、良かったのかな、抜けて来ちゃって……」
「父さんもああ言ってたし、気にすんなよ」

黒澤くんが夜空を仰ぎ、息を吐き出した。
白い息が宙を流れる。

「……榊が来てくれると思わなかったよ」

少し思案した後、答えた。

「わたしが行きたいってお願いしたの。……黒澤くん、年末から様子がおかしかったでしょう?」

僅かに目を見開いて、笑った。

「はは。バレてた」

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