例えば危ない橋だったとして
「……俺、クリスマス会行かなかったろ。前日に容態が悪化してさ」
「……うん」
「一度は持ち直したんだけど……年明けてまた……」
「……うん……」
共に壁にもたれ掛かり、前を見据えながら小さく声に出した。
黒澤くんは今、どんな想いを抱えているのだろうか。
わたしは以前の話の記憶を辿り、躊躇いつつも尋ねた。
「……前に、手術がって言ってたよね……」
「……あれは、嚥下障害の手術したんだ」
「えんげ?」
「食べ物を飲み込めなくなる……誤嚥を防止する為の手術。発声機能が失われるから、弟が反対してたんだよ。そもそも言語障害があったから、もうほとんど喋ってなかったし、一緒だろって俺は思ってたけど……」
黒澤くんは言葉を詰まらせ、下を向いて唾を飲み込んだ後、顔を上げ笑顔を作った。
「……ごめん」
黒澤くんの様子に、胸が傷んだ。
そんな辛そうに、笑わないで。
壁にもたれていた体を起こし黒澤くんへ向き直った。
掌を固く握り、黒澤くんのジャケットのボタンの辺りへ視線を落とした。
「……どうして、笑うの」