例えば危ない橋だったとして
話しながら、声が震える。
「そんな黒澤くん、見てられない。いつもいつも皆に気を遣って、自分押し込めて……こんな時くらい、仮面外したって良いじゃん……!!」
黒澤くんの瞳を真っ直ぐ見つめながら、涙が溢れてしまった。
彼の瞳が、大きく見開かれる。
考えるより先に、言葉が口から飛び出した。
「黒澤くんは、要らないかも知れないけど……わたし、黒澤くんのこと心配なの! どうしても、放っとけないの……! ひとりで、抱えないで……」
気付けば黒澤くんの胸元を拳で叩いていた。
呆然とわたしを見つめ返していた黒澤くんの瞳から、涙が一筋零れ落ちた。
「ごめ……」
彼は一言呟くと、苦しそうに眉間を寄せて、力を込めて瞼を閉じた。
黒澤くんの顔がわたしの肩に埋められる。
わたしは益々涙が溢れて、黒澤くんの弱々しい肩を抱き締めた。
黒澤くんの声を殺した嗚咽が、微かに聞こえた。
震えそうな手が、わたしの背中を力強く抱き締め返した。
「……母さんなんか、嫌いだったけど……こんなことなら、もっと話しとくんだった……」
わたし達はしばらくの間、抱き締め合って涙を流していた。